プライベートエクイティファンド事業を展開しているクレアシオン・キャピタル株式会社。
当社に、同社が買収を検討するピルボックスジャパン株式会社(以下:PB社)の事業デューデリジェンス(以下:DD)を依頼され、当社が案件クローズに貢献されたた実績があります。同社・ヴァイスプレジデントの近藤嵩氏と当社代表取締役の田中が同案件の振り返りやPEファンドで求められる人材要件等について語ります。

 

目次

PB社のDDを振り返って

田中:クレアシオン・キャピタルさんとは、PB社のDDを当社がお引き受けさせて頂きました。まずはその話から振り返ってみたいのですが。

近藤:あれは難しいDDでしたね。

田中:難しかったですね。PB社は、日常消費財を商材とする会社です。業績を伸ばしていた背景には、中国向けの越境ECで売れる商品、インバウンドで売れる商品展開に強みがありました。

近藤:インバウンド需要の中でも、特に中国のソーシャルバイヤーによる爆買いが及ぼす影響が大きかった商材ですから。そのPLインパクトが今後どう変わっていくのかを見極めるのが、まず難しかったんですよね。そもそも、日常消費財自体、盛り上がっては衰退するライフサイクルがある。不確定要素が多い分、未来をどう想定するのかが難しい。

田中:ええ。何度もやり取りを繰り返し、実態の数値に近付けていきました。

近藤:PLが急成長している会社は不安定要素があるとして銀行が嫌がりますから、一過性の成果は除いてあげる必要があるんですよね。要するに、一定の値以上の売上はバブルなわけですから。
僕と田中さんが旧知の中だったこともあったでしょうが、相当バチバチ意見をぶつけ合いましたね(笑)。時期の関係上、年末年始にもお付き合い頂いて。何せ、2週間で中間報告を上げなければならなかったので。

田中:いやあ、大変でしたよね(笑)。

近藤:ただ、その甲斐あって、本件は結果的に事業に突っ込んだPEファンドらしいDDになったと思っています。算出した実力値通りの数字に今期は収まりそうです。

田中:新型コロナウイルス感染症の影響でインバウンド需要が一気になくなり、本来の実力値が可視化された。結果、数字の答え合わせが出来た形になりましたね。

近藤:はい。まだ分からない未来を予測するため、様々な角度から予測に必要なデータを集めましたよね。二人で国会図書館に市場の推移データを確認するために出向いたこともありました。

田中:これまで勘でやっていた売上予測を、DDの段階から仮説検証して行えれば、ファンドとしてもその後の経営がし易くなりますね。

近藤:そうですね。実は、本件は他のファンドが一度ドロップしたものだったんです。間にコロナ禍が来てしまい難しさが増しましたが、結果クローズできたことは当社としても大きな成果になったと思っています。

田中:その後のPB社の状況はいかがですか?

近藤:最終的にローンも通りました。エクイティを減らせて入れられたんです。新型コロナウイルス感染症の影響でインバウンドが戻らないなか、国内で売上を上げるのは難しい状況が続いていますが、他のチャネルでの海外販路拡大が進んでいます。来年にはオリンピックも開催される予定ですし、国内ドラッグ市場も戻ってくるでしょう。もしかしたら、想定以上にPLが伸びていくかもしれませんね。

投資先企業の経営に深く携われる人材がいるのがクレアシオン・キャピタルの特徴

田中:ここで、改めてクレアシオン・キャピタルの特徴についてお聞きしたいと思います。

近藤:当社のエグジットの方針はIPO志向です。令和2年11月現在、14社投資しており、うち10社前後が上場準備会社です。他のバイアウトファンドが組成するファンドはブラインドファンドが主流ですが、当社はブラインドファンドとターゲットファンドを混ぜ合わせている点が大きな違いです。投資家から見てみたら、どの事業にお金を入れるのかというところですね。ひとつの事業にコミットいただいている点が特徴だと思います。
他のファンドではトータルで勝てればいい方針を取っていますが、我々はブラインドファンドで一社一社勝っていかなければならない点もPEの中の強みであると認識しております。

田中:今回の新型コロナの状況が起きても、対象会社のPLがきちんと伸びる、という所をDD毎に見られていますよね。PLの蓋然性を客観的に判断され、業種業界を問わず、個別銘柄毎のバイアウトをされているなという印象です。

近藤:個別のPLの蓋然性を深堀って見ていくのは他ファンドとは異なる点でしょうね。

田中:投資後に経営に関与されていくファンドはなかなか無いですよね。というのも、経営に深く携わるには、事業、財務について理解している必要がありますから、携われる人自体があまりいない。経営が厳しくなった局面で投資先の経営に入っていける、携われる人材がいるのは、クレアシオン・キャピタルの強みだと思います。

近藤:他ファンドの場合、投資先企業の業績が悪くなると、外から経営のプロを連れてきて入れるケースが多いですね。伴走していたファンドサイドの人間が企業の立て直しに携われるのは、弊社の強みかなと思います。

全体像が見える社外の人間だからこそ、変革を後押し出来る

田中:投資先企業の経営に深く携われるという話が出ましたが、正に近藤さん自身がご経験されていますね。社長を務められている(令和2年11月現在)株式会社doubLeについてお聞かせ頂けますか?

近藤:doubLeはテレアポ営業に強い会社です。ただ、上場を目指すなかで、従来の営業方法で続けていくのは厳しいという課題がありました。ビジネスモデルを変えつつ、PLを維持することが求められていたんです。
内部昇格で新社長を据えてやって頂いたのですが、社内の人間だとどうしても過去の成功体験に縛られてしまい、マインドセットを大きく変えるのが難しい。結局、業績は右肩下がりになっていたんです。そこで、ファンド側から私が社長に就くことになりました。

田中:どのように進めていかれたのでしょうか。

近藤:既に社内のキーマンを理解していたため、彼らを集め、どう考えているのかについて率直な意見を聞き、共感する作業から進めました。ただ、古くからいる社員の多くは、やはり従来のやり方を踏襲しがちで、新しいことに対してできない理由を並べていく傾向にあるんですね。そこで、「出来ない理由ではなく、どうしたら出来るのか意見を出してほしい」と繰り返し伝え続けました。ずっと社内にいた人間だけでは、変革は難しい。その一歩を踏み出す手助けを私がした形ですね。

田中:社内の人間は、皆な同じ方向から物事を見ていますからね。

近藤:はい。外野の方が全体像を捉え易いです。また、意見を募るにあたっては、意見にNOと言わないことを自分に課しました。一旦全ての意見を受け入れて咀嚼し、全体像をアウトプットで出してから、今後どうしていくのかを議論していったんです。

PEファンド業界に転職する人材に求められること

田中:PEファンドへの転職に関して、近藤さんが感じていることはありますか?

近藤:マネーモチベーションで入ってこようとする方が多い印象があります。分からなくはないですが、正直それだけでこられるのは、もやっとしますね。PEが投資しているのは、実は事業じゃなくて人(経営陣)なんです。もちろん事業を見ないわけではありませんが、それ以上に経営陣に魅力があるのか、異常事態や有事の際に柔軟に対応出来る人達なのかといった、人となりを見極める力が求められる仕事なので。

田中:PEにいない立場から見ていて最近思うのは、小規模M&A等に対し、マネーモチベーションでエグジットされる創業者や経営者が、近年多いなという印象です。事業への愛や執着は大変重要なことですので、最初からバイアウトありきのマネーモチベーションでは、僭越ながら、どうしても薄っぺらく思えてしまいます。当たり前ですが、事業や業界への愛や想い入れがある場合は、業績が傾いたからといってすぐに逃げない胆力がある投資担当者は、あまりいないように感じます。

近藤:収入により上がるモチベーションも確かにあるとはいえ、PEの仕事の魅力はそこだけではないですからね。まだ若い年齢で、50~60代の経営陣と対等に話せる機会はそうそうあるものではありません。100人いる会社の社長をやらせて頂けることもあります。株主として事業を見られる喜びや楽しみを感じられる人にこそ、是非来て頂きたいです。

田中:人間力ですね。

近藤:はい。特に、社会情勢の変化により経済状況が不安定になり易い時代だからこそ、より人を見極める力やコミュニケーション能力が大事になって来たのではないでしょうか。
マネーモチベーションで動く人が多い背景には、日本人が生きている相対的な価値観があると思っています。偏差値に始まり、同期と比べていかにより良い会社に就職を決めるか、いかに高収入を得るか、家や車を持っているかといった具合に、何かと他人と比較して幸せかどうかジャッジしがちですよね。でも、その生き方だと一生幸せになれないと思うんですよ。

田中:「他人より持っていたい」が基準になると、際限がなくなりますからね。

近藤:はい。私は「吾唯足るを知る」という言葉が好きなんです。このマインドセットは、PEに限らずどの様な仕事でも大切ではないでしょうか。他者比較の中で見出した「これが欲しい」のために仕事をするのでは幸せにはなれない。そうではなく、自分が何を欲しているのかを見据え、そのゴールに向けた手段として仕事があると考えています。

田中:近藤さんの見据えているゴールは何処ですか?

近藤:私のゴールは自分や家族が幸せな時間を過ごせることです。そのために最適な仕事とは何かを考えてきましたね。今自分が持っているものは何か、この仕事で獲得出来るスキルは何なのかを見極めて仕事を選ぶ方が良いと思っています。

田中:そのゴールに辿り着くための判断の一つが今なんですね。

近藤:はい。私は会社を経営できる人になりたいんです。経営者になるには、頭・体・血液の3要素がいると思っています。
私がまず手に入れたのは体でしたね。体はオペレーション、つまり実務で、私は商社時代に身に着けました。頭は正しい意思決定ができる知識面、ロジカルシンキングですね。商社で身に着けるには限界があったため、私は戦略コンサルティングファームで学びました。そして、残りは血液。これはビジネスを動かすために必要なお金周りです。
若い起業家の方だと、この3要素が未だバランス良く整えられておらず、お金の部分で苦労したり、実務しか出来なかったりするのだと思います。私はこの3つをバランスよく兼ね備えた経営人材になりたいんです。

田中:非常に分かり易い例えです。

近藤:ファンドでは珍しいタイプかもしれません。相手の求めていることと自分がこうしてほしい意志とをどう近づけるのか、どう説得すれば理解されるのかを考えるスキルを得るために戦略やロジカルシンキングを学びました。

田中:近藤さんは気合が違うと感じています。

近藤:スマートにやろうとしている人が多い業界ですからね。感情を押し殺さないので、人間味があると言われますよ(笑)。

田中:投資して終わりといったドライな部分のある業界ですからね。

近藤:私は資本で参画したのなら、株主として口だけ出すのではなく、経営陣と同じ方向を見ていたいと思っているんですよ。

田中:ファンドと経営陣は反対側に座るイメージがありますよね。近藤さんの様に経営陣の隣に座って取り組んでいく姿勢は、これからのPEが経営陣に信頼される大切な要素だと感じます。いかがでしたでしょうか。
本日はクレアシオン・キャピタル株式会社の近藤嵩さんにM&A業界について語って頂きました。お忙しい中、本日は本当にありがとうございました。

近藤:こちらこそありがとうございました。