シンガポール、日本、フィリピン、オーストラリア、ベトナム、インドネシア、タイの世界7ヵ国でビジネスを展開しているモビリティスタートアップ「SWAT Mobility」。

2020年2月に設立された日本法人の代表を務める末廣将志氏とT&INK社代表取締役の田中とは、在籍した明治大学から豊田通商への入社までのキャリアを同じくしています。

末廣氏は、T&INKの人材紹介により、日本の大手ベンチャーキャピタルである、東京大学エッジキャピタルパートナーズ(通称:UTEC_The University of Tokyo Edge Capital Partners Co., Ltd.)の投資先である、SWAT Mobilityに戦略コンサルティングファームである、シンガポールのアクセンチュアより転職。

今回の対談では、総合商社、MBA取得、コンサルティングファームを経て、ベンチャー企業の社長になられるまでの経緯、MaaS分野でのビジネスや今後の展開等について、末廣氏と田中が語りました。

新しいことへの挑戦意欲がキャリアの根本

田中:末廣さんがSWAT日本法人の代表に就かれるまでのキャリアについてお聞かせ下さい。

末廣:新卒で豊田通商に入社し、プラント・プロジェクトと自動車機械の二つの部署で働いていました。プラント・プロジェクト部にて、中東での発電所・変電所の建設プロジェクトに5年間携わり、その後、名古屋で自動車機械関係の仕事に3年間携わっています。

その後、MBA(経営学修士)を取得するため、私費でスペインのIESE Business Schoolに2年間留学。留学期間を終え、豊田通商を退職してシンガポールのアクセンチュアに転職しました。2019年11月にUTEC投資先のシンガポールに本籍を置くSWAT Mobilityの日本法人の代表になりました。日本法人の設立は2020年2月です。

田中:ベンチャー企業にチャレンジしようと思ったのはどの様な理由がありましたか?

末廣:自分で決断してビジネスを動かしたい、という思いがあったからです。大きな組織になればなるほど、上司の意見に従わざるを得ない部分があります。自分の決断でも良かったのではないか、むしろ自分の決断の方がより良い方向に進んだのではないかと思うこともありました。自分で決断し、責任を持って事業を進めていきたいという期待のもと、スタートアップであるSWATへの入社を決めました。結果、期待通りでした。

田中:SWATに入られる前に、シンガポールのアクセンチュアに入られた経緯についてもお聞かせ下さい。

末廣:MBA留学後の選択肢は二つありました。一つは起業、もう一つは海外勤務です。両者に通ずるのは、自分の根底にある「困難なことに挑戦したい」「自分しか出来ない経験を積んで成長したい」という思いでした。
海外勤務を選んだ理由は、卒業時に起業の具体的なアイデアが無かったことと、魅力的な海外企業からオファーを頂いていたという二点です。留学後、一度日本帰国してしまうと、再び海外の現地法人で働く機会を得るのは大変だと思ったのも判断理由でした。
結果的に、この選択は間違っておらず、多くの貴重な経験をすることができました。ですが、自分が決断して、ビジネスを進めていきたいという思いが強まった結果、転職を決めました。
当時は起業アイデアもあったのですが、SWATのプロダクトを知り、日本で大きく拡大出来そうなビジネスであると直感的に思い、SWATに転職を決めました。

田中:シンガポール勤務時代は、頻繁に連絡を取り合っていましたね。
私自身も環境を変え、挑戦の連続の人生ですが、周囲の人から受ける影響も大きいのではないかと思っています。
MBA に来られる方達は、皆さん高い能力をお持ちですよね。特に末廣さんの様に私費で通われていた方達は、がむしゃらさも際立っていたのではないかと思います。MBA在籍時の周囲の方々が、末廣さんご自身に与えた影響は大きかったのではないでしょうか?

末廣:多様な価値観や高い志を持っている人が多いことは、大きな気づきになりました。それぞれが、強い目的意識を持ってMBAに来ていることを感じる機会が多かったですし、その志に感化された部分も大きかったです。
日本からは社費派遣生が多いですが、日本以外の国から来る方は、基本的に私費留学生です。中には先進国でない国から来ている方もいます。そのような国から私費で学びに来る人は、モチベーションが違うと思います。

田中:日本人はどういった業界や企業から来られている方が多いのですか?

末廣:商社が多いですね。あとは金融系や証券会社なども。外資系金融の方はあまりいませんでした。

田中:卒業後、起業された方はどれくらいいらっしゃいますか?

末廣:海外で起業された方がいるにはいますが、私の近しい人にはいなかったです。通っていた学校が、コンサルや金融などの大企業への就職を希望する人が多いことが関係していると思います。他の学校だとまた違ってくるのではないでしょうか。

現在地と期待値との距離が遠い人ほど踏み出せる

田中:末廣さんが現在、SWAT日本法人の代表に就かれている背景には、ご自身が受けて来た影響や積み重ねてきた努力があると思います。末廣さんと大学から豊田通商まで共に過ごしてきたなかで、私は20代の日本人商社マンの多くが葛藤を抱えていると感じてきました。ベンチャー企業に一歩踏み出す勇気がないといいますか。この辺りについて、末廣さんはどう見られているのかお聞かせ下さい。

末廣:MBA留学の話で例えますと、「MBAに行きたいです」と相談を持ちかけて来られる方が10人いたとして、本当に行かれる方は1人くらいしかいないのが現実です。様々な事情があるとは思いますが、踏み出せた1人とそうでなかった9人と何が違うのかというと、恐らく、自分がなりたい姿をどれだけ高く設定しているか、だと思います。現在の自分の姿と比較して、描いているなりたい姿がかけ離れていると、「今、一歩踏み出さねば」という危機感を抱くのはないかと思います。なりたい姿が低い位置にあると、現状への焦りもおきず、何も踏み出さないという現状維持に向かってしまうのかもしれません。

田中:末廣さんは学生時代にスポーツは、サッカーをされていましたよね。私は野球だったのですが、サッカーをされていたからこその思考の違いもあるのでしょうか。戦局を頭上の空間から把握する能力や敵、味方との距離感等、その辺はいかがでしょう。

末廣:それはあり得るかもしれません。考え方というより、精神面に受けた影響はあります。

MaaS分野の現状とSWATの取り組み

田中:SWATで今行われている仕事の課題や今後の方向性について御話出来る範囲内で、教えて下さい。

末廣:弊社のビジネスは、企業向けと公共交通向けの2つのカテゴリーに分けられます。公共交通については、政府も課題意識を強く持っていて、オンデマンド交通を含むMaaS導入において、多くのサポートをしています。公共交通は、弊社単独で推進していくのは難しい面もあるため、パートナーとなる企業を見つけ、共にサービスを展開していきたいと考えています。

田中:既に導入事例はありますか?

末廣:パートナー企業と共に新潟市で市街地型オンデマンドバスの実証実験を行っています。

田中:テクノロジーを入れることで雇用に影響が出るといった反発はありますか?

末廣:運転手の高齢化により、人員不足に陥っているバス会社が多いと聞いておりますので、雇用の面での反発は今のところ聞いたことはありません。

田中:対企業向けのBtoB領域の取り組みについてもお聞かせ下さい。

末廣:ASEANでは主に通勤送迎サービスを提供しています。工場や工業団地に通う数千人の社員を弊社のアルゴリズムで効率化したルートで送迎することで、バスの台数を減らし、コスト削減をしております。日本では、営業員・保守員の送迎サービスの実証実験を行っております。弊社のルーティング技術により、社員の生産性を向上できております。

田中:なるほどですね。商社や卸売で、営業マンが、自動車を利用している様な企業には、メリットや利点がありそうですね。

末廣:そうですね。重要なのは移動エリアです。限られたエリア内で複数の移動が同時に発生する需要があれば、相乗りさせることができ、効率的な移動によるメリットを提供できます。

田中:エンジニアは、現在シンガポールから遠隔で働いて貰っている状況ですか?

末廣:現時点ではそうです。日本での事業が大きくなってくると、日本法人でもエンジニアを採用すると思います。日本のお客様の要望に正確かつ、即座に対応する必要があると思っているからです。

田中:SWATの拠点、シンガポールから見た日本の立ち位置を教えて下さい。

末廣:世界7ヵ国でビジネスを展開していますが、日本は最重要国です。日本は、特に地方都市において、高齢者の免許返納を始めとする交通課題が深刻です。同時に、人口減少が理由で、交通事業者が事業を継続するのが厳しい状況です。弊社の技術を導入することで、これらの課題解決が出来ると思っています。

田中:SWAT日本法人として、今どのような人材を求めていますか?

末廣:ベンチャーマインドを持っている人です。日本ではこのような人材は非常に少ないと感じています。自分が何でもやってやるというマインドを持った主体的な人を採用したいです。

田中:会社として、今後の方向性で御話頂けることはありますか?

末廣:市場規模や成長性を見ながら、方向性・戦略は適宜修正しながら、進めていかなければならないと思っています。

ベンチャー企業の社長に求められる能力はBtoC、BtoBで異なる

田中:ベンチャー企業の社長として求められる資質について、末廣さんはどう思われていますか?

末廣:私は創業者ではなく、日本法人の代表でしかないですし、まだ就任から1年程度なのであまり大きなことは言えないのですが、決断する度胸・胆力は必要な資質かと思います。
また、ビジネスモデルによって求められる資質は異なるのではないでしょうか。
一般消費者向けの場合、クリエイティブ能力が必要かもしれませんし、企業向けの場合、大企業の役員から信頼を勝ち得るような能力が必要かもしれません。

田中:末廣さんの場合、商社時代のご経験が活きていらっしゃいますか?

末廣:そうですね。商社時代は、顧客は大企業であった為、そこでの経験は間違いなく生きております。大企業向けの営業経験を持っている人は、BtoBスタートアップでも経験が活かせるのではないでしょうか。

田中:いずれにせよ、クリエイティブ能力や信頼を得るための経験やスキルが必要、ということですね。
MaaSの導入がどんどん拡がって、成功事例が増えるのを楽しみにしています!
本日はありがとうございました。

末廣:こちらこそありがとうございました。