2017年3月にセーフィー株式会社のCFOに就き、同年と2019年の二度に亘り、同社の累計30億円以上の大型資金調達に尽力し、急成長ベンチャー企業をCFOとして牽引される古田哲晴氏。マッキンゼー、産業革新機構を経て、現職に至るまでのキャリア選択の背景、CFOに求められる素養について、T&INK代表取締役社長、田中と語りました。

目次

コンサル、ファンドを経てベンチャー企業のCFOに

田中:まずは、古田さんのこれまでのキャリアから御話頂きたいと思います。新卒でマッキンゼーに入社され、4年半勤められた後、産業革新機構で6年間勤務、2017年3月からセーフィーのCFOに就かれていますが、それぞれでご経験されたことで嬉しかったこと、辛かったことについてお聞かせ下さい。

古田:マッキンゼーでは論理的思考能力を鍛えられたと思っています。社会人1ヵ月で自分の担当していた大手企業の買収案件が日経新聞の1面に載る等、世の中を変えている実感が持てる大きな仕事にも携われましたことが嬉しかったです。
辛かったのは、自分の役割はあくまでもアドバイザーであり、当事者ではない、ということでした。3ヵ月間、死ぬ思いで作り上げた提案書をクライアントに提示した後、「ありがとう」で終わってしまって実行されなかったのは辛かったですね。結局、その辛さが20代後半での転職に繋がりました。

田中:そうだったんですね。転職先にPEファンドを選ばれたのはなぜですか?

古田:企業の意思決定の場に関われると思ったからです。仮に当時の段階で事業会社に入っても、歯車の一つにしかなれないと思いました。
ファンドに入って良かったことは、経験やスキル、視野が大きく広がったことですね。コンサルではPL脳を培いましたが、ファンドではPLに加えてBSやキャッシュフローに関する能力も付いてきます。
いくらで買収するのかであったり、税務的なストラクチャーであったり、契約を見たり、人事組織面を見たりですね。考えるべきトピックが広がった分、知識の幅も広がったと思います。
またコンサルでは会社と数ヵ月単位でしか関われなかったのですが、ファンド時代は半年、1年、2年と長いスパンで投資先とお付き合い出来たことも良かった経験の一つです。一緒に取り組んでくれる社長と生きた経験を重ねながら、会社が変わっていく状況を横で見られるのが面白かったですね。

田中:ファンド時代に辛かったことはありますか?

古田:辛かったことはそれほどないです。売却前提の買収への切なさはありましたが。どちらかというと、抱えていたのは辛さより物足りなさですね。どうしても短期的利益を追う目線になりがちだったり、どこまで会社と接していても「いずれいなくなる人だ」と見られてしまったりする点に、足りない感覚を味わっていました。

田中:イグジット含め、当初の想定通りにいかなかった案件もあったかと思います。その様なケースに至った際はどの様に感じられていましたか?

古田:そうですね。そうした時にも当事者になり切れないことによる無力感を抱いていました。本当は、現場に行って自分が立てた計画を一緒にやりたいんですよ。でも、実際には取締役会に月1回訪れて指摘するだけ。コンサル時代と比べると会社との距離が近づいたものの、まだまだ遠いと感じていました。また業績修正できないままになってしまった案件が残っているのは心残りです。ただ、トータルで見ると国の財布を数百億円潤せたので、そこに関しては達成感があります。

田中:その後、セーフィーさんにCFOとして入られましたが、ここの経緯についてもお聞かせ下さいませ。

古田:経営経験を積める環境とM&Aができる環境の2つの軸で転職先を考えていました。ファンドの経験の中て、自分で経営経験もないくせに社長の交代を迫っていることに矛盾を感じていました。もう一つは、売却前提ではないM&Aをして、会社を加速度的に成長させていきたいとも思っていました。
グローバルな会社と日本企業の30年間の差分を見た時、自社のオーガニック成長だけで頑張ってきた日本企業とM&Aを利用して成長してきたグローバル企業とでは、10倍以上の差があると分かりました。その二つを軸にして転職先を選んでいたら、たまたまご縁があり、現在に至りました。

田中:CFOになることは前提だったのですか?

古田:M&Aの責任者をやりたかったので、前提ですね。

田中:古田さんの様な大変ご優秀な御方であれば、他会社からも御声がかかっていたのではないかと思うのですが、なぜセーフィーさんを選ばれたのでしょうか。

古田:ベンチャー企業のビジネスの多くは、市場の無い所に新たな市場を作るものです。そのため、世に出るタイミングが合っていなければ伸びませんし、技術面が追い付いておらず、コストがかかってしまうケースも見受けられます。
その点において、セーフィーには監視カメラという確実な伸び代がある既存市場がありました。更には、映像活用市場という新たな市場もあります。
また、ビジネスモデルにも強みを感じました。サブスクリプションビジネスは、解約率をいかに下げるかが焦点ですが、セーフィーの事業はUI・UXにも強みもあり、解約されることがほぼありませんでした。
ビジネスモデルと市場、この2点の強みに加え、代表の佐渡島のビジネスマンとしての力量の高さに惹かれ、入社を決断致しました。

CFOとしてセーフィーへ入社。大変なのは組織創りやマネジメント

田中:セーフィー入社後は、CFOとしての資金調達がメインの仕事でしょうか?

古田:入社直後は資金調達というより、雑用係でしたね。請求書の発行からパソコンの発注まで、本当にありとあらゆることを何でもこなしました。新鮮な経験でしたね。ビジネスの動き方も体験でき、勉強になりました。採用が進むにつれ、少しずつ仕事を他のメンバーに任せていき、今に至っています。

田中:CFOとして入社して、古田さんのように謙虚に仕事にあたれる人はそうはいないのではないかと思うのですが。

古田:いえ、ベンチャー企業に飛び込んでいける人なら、皆さん大丈夫なのではないかと思いますよ。ただ、何でも自分でやっていく姿勢が正しいとは言い切れないですね。詳しくない分野のことも何でも取り組んでいったことで、いわば「古田流」が出来てしまったのです。
そのため、その分野のプロを入れてからプロのやり方とは異なる点が出て来ました。最初からプロを入れておいた方が組織運営においては良かったかもしれません。例えば、債務管理の人を最初から入れて任せていれば、業務フローチャートやダブルチェックもミスがない状態で築けたかもしれません。

田中:餅は餅屋で。

古田:ええ。私が分からないなりに努力した結果、私自身の学びには繋がったのですが、逆に負の遺産が出来てしまった面もあるのかなと。経営は組織で実行することに醍醐味があるものですので、今考えると反省です。

田中:今の仕事で大変な点はどういった所にありますか?

古田:お蔭様で、業績もサービス認知度も伸びています。個人的にも会社的にも課題に思っているのは、組織創りの難しさですね。
一般論として、組織運営には100人の壁があると言われています。阿吽の呼吸で動けるのは、20~30人程度が限度。そこから50~100人と増えていくと、社長の声が全社に届き辛くなっていくため、中間管理職が必要となります。会社の方針と自分の業務を仲介して繋いでいく役割を担える人だと思います。
100人の壁とは、組織が100人に近づいて来た際、退職ラッシュが発生することを指します。当社はそこまで悪い状況には陥りませんでしたが、規模が大きくなって来た時には社内の空気感の悪化を感じました。30人、100人、300人と、人数により組織マネジメントの難易度は格段に上がっています。
当社の経営陣はきちんと部下がいる経験をしてきませんでした。私自身も含め、皆が「経営とは」「組織運営とは」と模索しながら進んでいます。

キーワードは海外とM&A。CFOとして「攻めの仕事」に注力したい

田中:CFOとして、現在注力されていることは何でしょうか?

古田:ベンチャー企業のCFOは幅広く仕事を手掛けます。主に経理・法務・人事といった管理に関わる守りの仕事、上場やM&A等、攻めの仕事の2種に大別でき、私が今力を入れて行きたいのは攻めの仕事です。守りの仕事は人に任せられるようになり、経営戦略の策定等に時間を使えるようになったので。M&Aで会社を成長させたいと思って入社しているので、そこに注力していきたいと思っています。
映像の分析や解析が得意な会社であったり、IoT化したり、あとは海外に出ていくために現地の会社を買収したりすることも今後あるだろうと思っています。今ある付加価値を広げていきたいですね。海外とM&A、この二つのキーワードに注力していきます。

田中:成長を続けるセーフィーが、今欲している人材についてもお聞かせ下さい。

古田:好奇心旺盛なエンジニアですね。新しいサービスを生み出している会社なので、若い方は歓迎です。柔軟性が大切になってくると思っています。

大型資金調達の実績を持つCFOが考える「CFOに求められる素養や要件」とは

田中:入社当初は何でも取り組まれて来られたとのお話でしたが、資金調達面でも2017年、2019年の二度に亘り、30億円の調達と大きな実績をお持ちですよね。調達できるCFOに備わっている素養や要件について、古田さんは何が必要だとお考えですか。

古田:ベンチャーフェーズでお話すると、CEOの構想に、「カネ」の「ニオイ」を付けて数字に落とし込める力が必要だと思っています。社会的に意義があると感じたことを、具体的に数字に落として事業計画にすることですね。
CFOの出身には会計士や税理士、証券会社、大企業の経理、コンサルやFAS等が挙げられますが、この素養を持っているのは外資系証券会社やコンサル出身者の方に多いイメージがあります。
ただ、大企業の中でも管理会計をされていた経理の方も出来るのではないかと思います。会計士は過去の数字を扱う仕事なので、未来を数字で語ることが好きな方であれば、といった感じでしょうか。

田中:経理等の経験がない未経験者の場合、思考やマインドなどでCFOに適している素養は何が挙げられますか?

古田:必須条件は二点ですね。一つはビジネスに対する関心、好奇心。二つ目は数字分析能力、具体的にはExcel能力です。Excelが苦手なCFOはいません。シミュレーションを作り、手元でExcelを自在に扱えることが重要ですね。
ビジネスに対する関心、好奇心に関して言うと、例えばキヤノンや牛丼屋、Googleは何で儲けているのかと問われた時、ピンとくるかどうかにビジネス教養と素養の有無が現れます。事業が何で儲けているのかが感覚的に分かるようにならなければ、構想を数字に落とし込めませんからね。
但し、Excel同様、この素養も努力次第でカバー可能だと思います。日経新聞を読んでいる人とそうでない人とでは、身に付けられる素養や能力は大きく広がっていくと思います。経営に関してはセンスが一定数関わって来ますが、管理系に関しては努力、学習「意欲」が何よりも重要だと思います。

田中:古田さんはどのように素養を身に付けて来られたのでしょうか。

古田:ビジネス本や日経新聞と日経ビジネスを読むのは基本でしょうか。あと、私の場合はファーストキャリアがコンサルだった点で得していると思っています。金融・小売・メーカー・飲食店等、多様な業界でコンサルすることで、業界ごとの重要点を身をもって知ることが出来ました。
どうしても一社の会社に所属をしますと、一業界の知識しか知り得ませんからね。
アーリーステージでは、事業計画を作ることがメインとなるため、コンサルや証券会社出身の人が活躍し易いのではないでしょうか。一方、レーターステージでは、適切に数字を作って市場に確実に出していくことが求められます。上場後のCFOは会計士出身の方も活躍されているとも実感しています。
昔はベンチャー企業を渡り歩いている人がメインでいたのですが、最近はコンサルや外資系金融、大企業等、様々な企業や業界から入ってくることで全体の活性化がされていると思いますね。大企業は、ある種の完成形です。そこを経験した方がベンチャーに来るのは、お互いにとって良い機会であると考えています。

田中:CTO、CFOの素養を兼ね備えたCEOはそれほどいないと思っています。社長がどちらの素養も持っていない場合、古田さんはCTO、CFOのいずれを入れた方が良いと思われますか?

古田:会社のステージによって、必要となる経営チームには違いがあると思います。0→1フェーズでは、CFOはまだ不要だと思います。社長自身にもCFOの素養が求められますし、経験も積んだほうがいい。最初に入れるなら開発でしょうね。
規模が大きくなってくると、チームで無ければ経営が出来なくなっていきます。経営者と同じ目線を持ったトップが揃っている方が拡大し易いと思います。1から10、そして100といったフェーズに成長すると、社長が事業に専念するためにもCFOが必要になると思います。

田中:CFOには、シードからシリーズAまでを俯瞰して、見てほしいニーズと、資金調達後に常勤で入って貰いたいニーズとの二つがあると思います。日本のベンチャー企業を俯瞰して見られた時、CFOの働き方について古田さんはどの様に御考えでしょうか。

古田:どちらもありですね。狭い意味での資金調達を求めるなら、外部でいいと思います。管理側も含めて見て貰いたいのであれば、企業の中に入って実行する方が分かり易いでしょう。
構想を数字に落とすには、CEOとCFOが夫婦の様に分かり合っている必要があります。例えば、CEOの代わりにCFOが株主候補の方に事業説明を行う際、顧客への導入事例を説明し、事業計画に「カネ」の「ニオイ」を入れ、いかに生々しく語れるかが重要だと思います。
そうすることで、投資家サイドにも事業の成長性、収益性を感じていただけます。
CFOが、自分が商談してきたかのように語るには、CEOとの接点を広げ、日々話をする方がいい。そう考えると企業の中に入った方がベストです。但し、社内メンバーとのバランスによっても異なり、一部分だけ社内で出来ないのであれば外部からの関わりでもいいでしょう。会社のステージによって、どちらが良いのかは異なるのではないでしょうか。

田中:確かに会社の状況により、ですね。CEOとのコンセンサスが重要になるという点は間違いないですね。本日は大変お忙しい所、貴重なご機会を頂きまして、ありがとうございました。

古田:とんでもないです。こちらこそありがとうございました。良い御方がCFOという職業や当社に興味をお持ちいただいて、ご入社いただけますことをT&INKさんには期待をしています。